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第3回普及啓発セミナー(セキュリティ) 【安全・安心な社会に向けたAI技術と実用化事例 ―AIを活用した画像解析先端技術、製品の最新開発動向―】を開催しました

安全・安心な社会に向けたAI技術と実用化事例 ―AIを活用した画像解析先端技術、製品の最新開発動向―

公益財団法人東京都中小企業振興公社では、安全・安心な東京の実現に向けた、製品開発を支援する事業を実施しています。その一環として2024年6月7日、第3回東京の安全安心実現セミナー「安全・安心な社会に向けたAI技術と実用化事例――AIを活用した画像解析先端技術、製品の最新開発動向――」を開催しました。その内容をご紹介します。

 

本記事の目次

【第一部:講演「安全・安心な社会に向けたAI技術と実用化事例」】

・AI技術の変遷と課題
・AI映像解析技術が守る安全・安心、その可能性と事例
・インダストリアル・メタバースを活用した安全・安心、その可能性と事例
・イノベーション創生を加速する研究開発拠点「協創の森」

【第二部:事例紹介「行動認識AIの開発と実際のプロダクト開発事例 そして、行動認識AIが向かう未来/「AI Security asilla」】

・行動認識AIとは
・警備システム「AI Security asilla」について
・商業施設での「AI Security asilla」導入事例
・行動認識AIの未来

 

【第一部:講演】


安全・安心な社会に向けてAIをどのように活かすことができるのか。日立製作所で画像処理認識技術の研究に携わっている影広達彦氏に、最先端のAI技術を活用した画像解析の可能性や採用事例などをお話いただきました。

 

影広 達彦氏

株式会社日立製作所 研究開発グループ
先端AIイノベーションセンタ 主管研究長

 

■AI技術の変遷と課題

  • 社会変化と密接に関係するテクノロジー

テクノロジーの力により、人々の暮らしが大きく変わりつつあります。変化点は2つ。1つはミレニアル・Z世代における価値観の多様化に伴い、個々のQOL指標も多様化したこと。もう1つは、新型コロナウイルスがもたらした様々な社会変化により、強制的に自動化・省人化テクノロジーの活用が社会で急速に広まったことです。

現在3回目のAI(人工知能)ブームが起きています。過去2回のブームでは、AIが実現できる技術的な限界よりも社会がAIに対して期待する水準が上回り、その乖離が明らかになることでブームが終息したとされています。ですからこの第3次ブームでは、AIにおける潜在的な可能性と実用化とのギャップを埋め、ブームで終わらせるのではなく社会へ実装する取り組みが必要だと私は思っています。

  • AI技術の包含関係と進化

AIの定義に明確なものはなく、技術の進化によってもその定義は変化します。そしてAI技術というカテゴリーの中には様々な技術が包含されています。AI > 機械学習(マシンラーニング)> 深層学習(ディープラーニング)> 生成AI(ジェネレ―ティブAI)> 大規模言語モデルLLM (GTP)という包含関係です。

第3次AIブームの中で、その技術は個別タスクへの対応から汎用化へと進化しており、現在は生成AIにより翻訳や会話ができるなど、1つのモデルでマルチパーパスが可能となっています。

 

  • 社会実装のカギは、技術×OTのシナジー

日立は創業当時からOT(オペレーショナル・テクノロジー)により社会インフラを支えるプロダクトを開発してきました。その後、IT、IoTにもフィールドを拡大し、AI・メディア処理研究もその中で進めてきました。ただAI技術は、技術単独ではあまり意味を持ちません。他の技術やOT知識と組み合わせることで、初めて社会実装ができると私は考えます。

 

■AI映像解析技術が守る安全・安心、その可能性と事例

映像監視分野において当社は、顧客協創で得たニーズとOTにより、AI技術を革新しながら映像監視機能を高度化させてきました。警備・捜査向けにはじまり、産業向け、公共安全向けへと映像解析の応用領域を拡大。近年はX線手荷物検査、災害状況把握などにも活用されています。社会インフラ、産業分野でのAI技術の適用余地はとても大きいです。

  • 事例:不審人物や置き引きを発見するAI技術

公共インフラのお客様からのご依頼で、行動から対象者を絞り込んで検知する「行動解析技術」と、バッグなどの所有物から検知する「所有物認識技術」を開発しました。大量のサンプルの中から「性別」や「Crouch(しゃがんでいる)」といった挙動など絞り込むことができます。これにより発見と追跡を支援することが可能になります。

 

  • 事例:AI映像解析を活用した災害状況把握

地球温暖化・都市化に伴い大規模災害が増大しています。災害状況を把握することは災害対策支援につながることから、映像解析を活用した状況把握に取り組んでいます。例えば東京都の「高所カメラ被害情報収集システム」は、大規模災害時の家屋倒壊や火災を高所カメラ映像から自動で検知するものです。また消防研究センターの「災害検知AIプロトタイプシステム」は、土砂災害時に土砂中の水面や土砂の影響を受けた建物を検知します。

 

■インダストリアル・メタバースを活用した安全・安心、その可能性と事例

私たちは今、産業界におけるメタバース「インダストリアル・メタバース」に取り組んでいます。IoTセンサーなどのテクノロジーを組み合わせ、物理的な世界とデジタルの世界をつなぎ、収集したデータを活用して製造や物流のプロセス、サプライチェーンなどをシミュレーションできるものです。インダストリアル・メタバースは生み出す価値が理解しやすく、経営改革に結びつく技術のため、鉄道、プラント、電力など様々な分野で活用されています。

  • 事例:品質向上に向けた「指さし呼称認識システム」

「指さし呼称認識システム」は映像・音声データを用いて指差し呼称を認識する技術で、ここでは社内保守現場での事例をご紹介します。ウェアラブルカメラを付けた作業員が、行った作業に対して「よし」と指先確認するとデジタル上にログが残ります。これにより点検保守の品質向上に貢献することができます。

 

■イノベーション創生を加速する研究開発拠点「協創の森」

日立は、お客様と共にイノベーションを創出して成果を分け合う「協創」をキーワードとした研究開発拠点として、2019年東京都国分寺市に「協創の森」を開設しました。中央研究所のデータサイエンティストのトップ人財を結集して、お客様と共に価値あるビジネスやサービスの創生を目指しています。

AI技術の社会実装が進めば、すべての人が無意識にAIを活用し、生活や社会に広く浸透していきます。ブームで終わらせないためにも、AI×OTを本気で進めることが重要です。

 

【第二部:事例紹介】


株式会社アジラ「行動認識AIの開発と実際のプロダクト開発事例 そして、行動認識AIが向かう未来/「AI Security asilla」】

行動認識AIを搭載した警備システム「AI Security asilla」。このシステムにより警備の質向上を実現しているアジラの取り組みを、濱崎 拓磨氏にお話いただきました。

 

濱崎 拓磨氏 

株式会社アジラ

 

■行動認識AIとは

アジラは2015年に設立したAIスタートアップ企業で、世界トップクラスの行動認識AIをベースとした警備システム、「AI Security asilla」を運営・提供しています。我々は「あらゆる空間価値を高める社会インフラになる」ことをミッションに、テクノロジーの力で、安全で快適な世界を築くことを目指しています。

 

行動認識AIとは、
①人間の姿勢を推定し、
②時系列で分析することにより行動を解析する技術です。

防犯カメラなどから映像情報を取得して、①から②へと分析し、予測した結果を示すことができます。

今日は社会実装に至った「プロダクト開発事例」と、当社が強みにしている「行動認識AIが向かう未来」についてお話しします。

 

■警備システム「AI Security asilla」について

  • 警備業界を取り巻く厳しい環境

警備業界には様々な課題があります。重要犯罪の発生件数が増加傾向にあるにも関わらず、厚生労働省のデータによると全業種の中でも警備員の有効求人倍率が最も高いとされ、慢性的な人手不足により業務負担が大きくなっています。さらに警備員の高齢化が進んでいることも、警備サービスの質に影響してくる可能性があります。こうしたことを背景に2022年、警備市場にフォーカスした初のプロダクトとしてAI警備システム「AI Security asilla」をリリースしました。

  • 既設カメラから映像取得が可能なシステム

同システムは防犯カメラの映像を取得し、不審行動や異常行動、人の手が必要な状況をAIが検知して、リアルタイムで通知を送る施設管理・AI警備システムです。既設のカメラをそのまま利用できることが大きな特徴です。

  • 多彩な検知項目

さらにこのシステムでは「状況のリアルタイム把握」と「予兆・違和感の検知」により多彩な検知が可能です。状況のリアルタイム把握については「暴力・破壊行為」「自転車やスケボーの乗り入れ」「転倒・ふらつき検知」「人数カウント」「混雑状況」などを、また予兆・違和感の検知については「エスカレーターの違和感」「飛び降り予兆検知」「不審行動検知」などを実装しています。

 

商業施設での「AI Security asilla」導入事例

数十~数百台もの防犯カメラが設置されている状況で、警備員がすべてをモニタリングするのは物理的に不可能ですが、AIを利用すれば映像データを漏らすことなく確認できます。また、24時間365日、常時モニタリングし続けることができます。AIとの協業により、省人・省力化や警備の質向上が実現可能です。

例えば、エレベーターホール前での取っ組み合いを喧嘩・暴力行為として検知した事例があります。通りがかりの人を巻き込む可能性がある状況でしたが、同システムからの通知で警備員がかけつけることにつながりました。

販売開始から約1年で複合施設や商業施設、駅(インフラ)、大学、病院など様々な業態・施設で導入されており、市場が広がっています。

 

■行動認識AIの未来

私たちは「AI Security asilla」を、「行動を予測するAI」にしたいと考えています。事件や事故の未然防止、快適な空間価値の構築を目指そうということです。このとき必要になるのがマルチカメラ・トラッキングです。複数のカメラ間の情報を統合するもので、具体的には複数のカメラに映った人物の同定が可能になります。現在は迷子や行方不明者の捜索、人流解析による回遊および滞在時間分析に活用する研究を行っています。

 

行動認識AIはこのほかにも、医療用途への応用、感情推定、生成AI活用による技術の進化など、様々な可能性があります。私たちはこれからもその研究を進めてまいります。