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第2回普及啓発セミナー(子どもの安全・安心)_【ものづくり事業者に伝えたい「子どもや高齢者の安全・安心」を高めるポイント】を開催しました

ものづくり事業者に伝えたい「子どもや高齢者の安全・安心」を高めるポイント

公益財団法人東京都中小企業振興公社(以下、公社)では、安全・安心な東京の実現に向けた、製品開発を支援する事業を実施しています。その一環として2024年5月16日、第2回東京の安全安心実現セミナー「ものづくり事業者に伝えたい『子どもや高齢者の安全・安心』を高めるポイント」を開催しました。その内容をご紹介します。

 

 

本記事の目次

【第一部:講演「ものづくり事業者に伝えたい『子どもや高齢者の安全・安心』を高めるポイント】

・エクイティ=公平・公正という考え方の重要性
・子どもの製品開発の視点・事例
・高齢者の製品開発の視点・事例
・製品開発に役立つ注目技術、分析データ
・製品価値をアピールする

【第二部:事例紹介YKK AP株式会社の「子どもの安心・安全に向けた生活者検証事例」】

・価値検証センターの生活者検証とは
・価値検証センター開設時の検証で得た視点
・検証事例1:窓の開口制限(仕様)による子どもの転落予防
・検証事例2:ベランダ手すりからの子どもの転落予防
・生活者検証でさらなる安全・安心へ

【参考サイト・資料】

 

 

【第一部:講演】

子どもや高齢者の安全対策に配慮した製品・サービス開発のポイントや、利用可能なデータベース、各種支援制度について、長年この分野で研究活動を行ってこられた西田佳史氏にお話いただきました。

 

講師:西田 佳史氏

NPO法人Safe Kids Japan 理事/国立大学法人 東京工業大学 教授 博士(工学)

 

 

■エクイティ=公平・公正という考え方の重要性

公平性を目指す概念にエクイティ(Equity。で公平・公正の意)があります。すべての人に等しい支援をするだけでは公正・公平ではない場合があり、人によって支援を変えていく、必要な支援に必要な人に行うという考え方です。

子どもは「できないことができるようになる」ことで、反対に高齢者は「できたことができなくなる」ことでケガや事故が増えていきます。ですからエクイティは、子どもや高齢者の安全・安心を考えるうえでとても大事なのです。

子どもは、その子によって成長度合いが異なるものの、ケガの種類はある程度、年齢と相関関係があります。他方、高齢者は同じ年齢でもケガの種類にバラツキがあります。そのため年齢ごとの対策ではなく、生活機能を軸に製品開発することが重要になります。

 

■子どもの製品開発の視点・事例

  • 「子どもから目を離してもいい」製品や環境が重要

子どもの事故で最も多いのが「転倒」「転落」です。「転倒」は平均0.5~0.6秒という一瞬で起きるので、見守りによる転倒防止は不可能といえます。それよりも「子どもから目を離してもいい」製品で備えるという環境づくりのほうが重要です。

 

  • 転倒から子どもを守る歯ブラシの開発

転倒対策として補助金を活用して開発された製品に、子ども用の新しい歯ブラシがあります。歯ブラシをくわえたまま転倒し、口の中をケガする事故が、東京だけでも毎年40件程度発生していました。座って磨くように言っても、0~2歳児にはなかなか通じません。そこで開発・発売されたのが、柄の部分が曲がる歯ブラシです。転んでも歯ブラシが曲がることで衝撃を吸収します。この歯ブラシはキッズデザイン賞とグッドデザイン賞を受賞しています。

 

  • ABC理論で考える課題解決

こうした課題を解決するときには「ABC理論」が有効です。ものづくり事業者の皆さんには「変えられないもの」を変えようするのではなく、「変えられるもの」を変えるという考え方でプロダクトやサービスを創り出すことをお勧めします。

 

■高齢者の製品開発の視点・事例

  • 変化に対応できる用品の開発が重要

65歳以上になると、「転倒」が増え、かつ高齢になるほど重傷化しやすくなります。支援の量を増やし、生活機能の衰えにうまく対応する製品開発が求められます。従来から杖や車いすなどの福祉用具はあります。しかし、衰えはある日突然ではなく徐々に進むもの。であれば製品も「福祉用品」と「普通の用品」のどちらかではなく、徐々に変化していくことに対応できるもの、いわば「人が変わり続けることを飲み込むデザイン」が必要です。

  • 転倒事故データから見えてきたニーズ

高齢者の転倒事故データを調べたところ、多くは近くに物があるときに起きることがわかりました。物につまずいたり、つかまった物がバランスを崩して倒れたりすることで、転倒につながるのです。物自体を倒れないデザインにすれば、人の「身体保持性」の助けになり、転倒リスクを軽減できる可能性があります。

  • 身体保持に役立つ製品デザインのアイデア出し

そこで、住まいのさまざまな場所にセンサーを設置し、高齢者が触れたり、体重をかけたりする場所を調べる実験を行いました。その結果、ちょっとしたところにもつかまって身体を保持しようとしていることがわかりました。これをもとに工業デザイナーらとともに身体保持性を埋め込んだ製品デザインのアイデア出しを実施。次のようなアイデアが出されました。

・壁面にデザインされた手すりがランダムにあれば、身体保持しやすい。
・ソファーの背の上に手すりがあると、つかまって移動しやすい。
・テーブルの縁に手すりをつけると、体を引き寄せて立ち上がりやすい。

  • 介護施設や高齢者宅で試作品を検証

さらにこれらのアイデアをもとに試作品をつくり、介護施設や高齢者宅の協力を得て、使い勝手や身体保持の有用性、利用頻度などの評価とデータ取得も行いました。私たちはこうしたお手伝いもできますので、必要に応じて声をかけていただければと思います。

 

■製品開発に役立つ注目技術、分析データ

私がいま注目しているのは、長期間にわたって個人のデータを取得できるセンシング技術です。例えば、バッテリー不要のウェアラブル端末、物に埋め込めるもの、プライバシーに配慮して顔を映さず姿勢だけを撮影できるカメラなどに可能性を感じています。

また、「高齢者行動ライブラリ(Webページ)」も製品開発の参考になります。高齢者を対象に行動データ(映像データおよび姿勢データ)を収集したライブラリで、家の中の場所や動作、製品をキーワードにして行動データを検索できます。ぜひ活用してニーズを探ってください。

高齢者行動ライブラリ
https://www.behavior-library-meti.com/behaviorLib/

 

■製品価値をアピールする

「価値を創造する」とは、「これまで手に負えない(制御できない)とされてきたものに、新たな要素を追加することで、手に負える問題(制御可能)にすること」だと思っています。発想を変え、これを実現する製品を開発していただきたいですし、その製品ができたらぜひアピールしてほしいと思います。

 

 

【第二部:事例紹介】

YKK AP株式会社「子どもの安心・安全に向けた生活者検証事例」

「価値検証センター」という独自の拠点施設において、子どもや高齢者、車イス利用者等の特徴や行動の把握、製品開発に反映すべきさまざまな検証を重ねてこられたYKK APの久保 晶子氏にお話を伺いました。

 

講師:久保 晶子氏

YKK AP株式会社 技術研究本部 建築・ウェルネス技術グループ 健康技術室長、博士(工学)

 

 

■価値検証センターの生活者検証とは

YKK APは住宅用の窓、玄関ドア、エクステリアや、ビル用の建材までを製造・販売をしています。当社の価値検証センターは、生活者の行動観察を行う「生活者検証」と、実環境の再現検証を行う「実環境検証」により、製品化の過程や使用中に想定されるさまざまなリスク評価を実施する目的で、2007年5月、富山県黒部市に設立されました。ここでは生活者とともに商品を確認し、商品の生活者配慮を高める「生活者検証」にフォーカスし、事例を含めてご紹介します。

 

■価値検証センター開設時検証での予測しにくい行動から得た視点

価値検証センターを開設して間もなく、ある窓の検証で、子どもや高齢者の方で検証を行いました。すると、遊び行動や誤操作などの想定外の行動が見られ、さまざまな気づきがありました。

それまでは成人を中心に検証していましたが、この結果から多様な方で検証をすることが大事だと改めて気づき、身体能力に着目して検証対象を拡大。子ども、高齢者、車いすの方まで幅を広げて、多くの人が安全・安心で使いやすいユニバーサルデザインに一層取り組むきっかけになりました。

 

■検証事例1:窓の開口制限による子どもの転落予防

  • 子どもの行動、窓周りの状況

当社の検証室に来てくれたお子さんに「窓台(窓近くの床との段差)に登って、歩く・遊ぶ」行動や、窓の開閉をしてもらうと「外開き窓の開閉の際に身を乗り出す」といった行動が見られました。

また、モニターの方の自宅でお使いの窓を見せてもらうと、窓の近くや下に収納棚やベッドなどがある状況が見られ、「子どもの幼少期には転落しないよう気を付けていた」とコメントがあるなど、窓の設置場所や家具配置の状況によっては転落する可能性が確認されました。

  • 子どもの窓操作に関する検証実験

次に、横サイズの異なるたてすべり出し窓(外に開くタイプの窓)を3体用意し、2~6歳の子どもたちが開閉操作するときの姿勢や身の乗り出しの有無・程度を検証で確認しました。

・用意した幅が小さい窓では身の乗り出しがなく、転落の可能性は低い。
・それ以外の窓は身の乗り出しがあり、転落の可能性がある。

という結果が得られました。

 

 

  • 検証結果を受けての窓からの転落予防策

こういった状況に対して、当社では窓の開口制限部品を用意しています。たてすべり出し窓の開口制限部品に全開から自動復帰する機能を付けたり、引違い窓にも開口制限機構を付けられるようにするなど、転落予防対策を進化させています。

 

■検証事例2:ベランダ手すりからの子どもの転落予防

  • 子どものベランダからの転落事故の状況

東京都商品等安全対策協議会の報告書(平成30年2月)によると、平成19年からの10年間に12歳以下の子どもがベランダから転落した件数は145件あります。当社にはベランダ周りの商品もあり、ベランダからの転落事故は重篤な事態につながることも多いので、取り組むべき重要な課題と考え、検証や商品開発を行いました。

東京都や当社の事前実験から次のことがわかりました。

・1~2歳:手すりに手が届かず乗り越えられない
・3~4歳:手すりや足掛り条件によって、乗り越えの可否が変わる
・5歳以降:手が手すりに届き、足が足掛りに直接とどく(乗り越え可能)

この結果から、特に3~4歳の子どもを対象に検証をしていくこととしました。

 

  • 対策の方向性と検証実験

3~4歳の子どもでベランダの状況を再現・模した装置で検証を行うと、次のことがわかりました。

・些細なすき間にも手足を掛けて登る
・足掛りがあれば、手すりの形状に関わらず、ほとんどの子が登れてしまう
・ただ手すりは内側に持ち出していると、手すりに手が届いても登りにくくなる

このことから、

・手足がかかるすき間をなくす
・手すりの高さは、地面からではなく足掛りからの高さで考える
・手すりを内側にどれだけ持ち出すか

を対策の方向性として進めました。

検証結果の一部ですが、

・足が掛る格子タイプのベランダでは、手すりの高さに関係なく乗り越える
・パネルタイプは、手すりの高さが高くなるほど、乗り越える割合が下がる

という結果を得ました。

 

 

  • 検証結果を受けての窓からの転落予防策

こうした実験結果も踏まえて当社では、高さやすき間、手すりの形状などでよじ登り対策をした「ルシアスバルコニー」を商品化。2018年度のキッズデザイン賞で「審査員長特別賞」を受賞しました。東京都が推奨する仕様にも応える商品を用意しています。コロナ禍を経てお家時間が増え、ベランダの利用方法も多様化する中で、安全性に配慮したベランダ商品はとてもご好評いただいています。転落予防など、安全にお使いいただくための対策は継続して考え、商品化に取り組んでいます。

ルシアスバルコニー
https://www.ykkap.co.jp/consumer/products/exterior/lucias-balcony

 

■生活者検証でさらなる安全・安心へ

生活者・お客様の使い方には、我々作り手の想定外の使い方が多くあることを、これまでの検証活動から痛感しています。これからも生活者の方々と共に確認すること、さらにはどのようなものならより安全・安心に使っていただけるか、生活者の方と一緒に取り組むことで商品価値を上げていきたいと考えています。

 

【参考サイト・資料】

講演で紹介されたアピールに活用できる賞や場、有用な情報源をいくつかご紹介します。

 

キッズデザイン賞
https://kidsdesignaward.jp/

 

Safe kids ninja
https://www.safekidsninja.com/

 

東京都こどもセーフティプロジェクト
https://kodomosafetypj.metro.tokyo.lg.jp/

 

かわさき基準認証制度(高齢者向け)
https://www.city.kawasaki.jp/jigyou/category/283-1-1-0-0-0-0-0-0-0.html

 

子供の事故予防ハンドブック
https://kodomosafetypj.metro.tokyo.lg.jp/about/redesign/

 

科学で探る こどもの事故予防策 -転落-
https://kodomosafetypj.metro.tokyo.lg.jp/_manage/wp-content/uploads/report_pocket_book.pdf