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第1回普及啓発セミナー(フェーズフリー)_【「備えない防災」フェーズフリー製品(サービス)開発のすゝめ ——「いつも・もしも」も心強い「フェーズフリー」の新たなマーケット創出の可能性】を開催しました 

「備えない防災」フェーズフリー製品(サービス)開発のすゝめ

公益財団法人東京都中小企業振興公社(以下、公社)では、安全・安心な東京の実現に向けた、製品開発を支援する事業を実施しています。その一環として2024年4月26日、第1回東京の安全安心実現セミナー『「備えない防災」フェーズフリー製品(サービス)開発のすゝめ ~「いつも・もしも」も心強い「フェーズフリー」の新たなマーケット創出の可能性~』を開催しました。その内容をご紹介します。

【第一部:講演】

「備えない防災」フェーズフリー製品(サービス)開発のすゝめ
フェーズフリーを発案し、その推進に大きな役割を担っている佐藤唯行氏に、フェーズフリー製品(サービス)の考え方や開発ポイントをお話いただきました。

 

■フェーズフリーとは?

「フェーズフリー」とは、「普段から利用する身近なモノやサービスを、非常時にも活用しやすいようにデザインしよう」という考え方です。これは「文明や文化を発展させてきた人類だが災害だけは解決できず、悲惨な光景が繰り返されている」というジレンマに端を発しています。なぜ繰り返されてしまうのでしょうか。その背景には次のことがあります。

  • 安全・安心な社会をつくるメインプレイヤーが、限りある税収の範囲で対応せざるを得ない「行政」や「ボランティア」にとどまっており、限界がある。
  • 災害に対し、大半の人が「備えが必要」とわかっているにもかかわらず、実際には備えられていない状況であり、従来の「備える」製品・サービスではビジネスとして難しい。

こうしたことから私は、大半の「備えられない」人を対象にした防災ビジネスとして、日常使う製品やサービスが非常時にも役立つという前提で、「日常時」と「非常時」というフェーズをフリーにした製品・サービスこそが課題解決につながるという発想に至りました。

 

■新しいビジネスコンセプトとして高い注目

調査によると「フェーズフリー」という言葉の認知度は、まだ世の中の3割程度と低いものの、新しいビジネスや製品を開発していこうという人々の間では、新しいビジネスコンセプトとしてかなり浸透してきています。2023年8月に電通が発表した「今話題のマーケティングトレンドワード5」に選定されたほか、今年3月に国が発表した環境基本計画(案)でも、「フェーズフリーの考え方を取り入れたライフスタイルの促進」に言及するとともに、フェーズフリーのための技術支援が重点戦略に指定されるなど、新しい取り組みとして注目されています。

 

■フェーズフリーの具体例

従来の防災用品は、普段の暮らしでは活用しにくいためなかなか売れません。であれば、普段の暮らしを豊かにし、非常時にも役立つ製品やサービスの提供が必要です。

車を例にすれば、ハイブリッド車の普及があります。一般的なガソリン車が100km走行するのに12.2ℓのガソリンが必要であるのに対し、ハイブリッド車は同じ距離を2.45ℓで走行できます。環境にも財布にも優しいというベネフィットが認められて消費者から選ばれていますが、結果的に非常時には一般家庭の5日分の電力を賄えるというベネフィットも提供しているのです。まさにビジネス化、フェーズフリー製品の好事例です。

ほかにもフェーズフリー製品には次のようなものがあります。

 

●シガーソケットハンマー

水害などで車のドアや窓が開かなくなった際、窓ガラスを割って脱出するためのグッズ。一般的にはレスキューハンマーがあるが購入者は少ない。対して、フェーズフリーと言えそうな製品である「脱出ハンマーにもなるシガーソケットUSBカーチャージャー」は、USBカーチャージャーでありながら挿入部分の先端が尖り、災害時には脱出ハンマーとして使用できるとして購入が広がっている。

 

●紙コップ メジャーメント

紙コップに計量メモリのラインをデザインしたフェーズフリー製品。一見すると水玉模様のどこにでもある紙コップだが、避難所など困難な状況下では計量カップの機能を発揮。「粉ミルクの量を測りたい」「薬を希釈する水の量を測りたい」というニーズにも対応でき、一般的な紙コップと機能の差が明確にある。

 

■製品・サービス開発のポイント

ご紹介した、一般的なUSBカーチャージャーと脱出ハンマーにもなるシガーソケットUSBカーチャージャー、また一般的な紙コップと計量メモリがデザインされた紙コップ、それぞれ同じ金額で販売されていたら、多くの人が後者を選択することは想像に難くありません。

このように非常時に必要な機能を普段使う製品の中に含ませて、いざというときに役立つことが、新しい製品・サービスのアイデアになります。

フェーズフリーの製品やサービスは、トヨタ自動車をはじめ文房具メーカーのコクヨ、「洋服の青山」や、商社であればASKULなど大手企業から多く発表されています。しかし視点を変えたアイデア次第で可能性が広がるフェーズフリー製品は、むしろ中小企業こそが得意とする分野です。ぜひ東京都の支援も活用して開発にチャレンジしてもらいたいと思います。

【第二部:事例紹介】

スライド式リングレスノート「SlideNote」

開発したスライド式リングレスノート「SlideNote」でフェーズフリー認証を取得した株式会社研恒社の神崎太一郎氏にインタビュー形式でお話を伺いました。

 

――はじめに会社紹介をお願いいたします。

 

神崎氏:私たちは東京都千代田区にある総合印刷会社です。コロナ禍の影響もあり、印刷以外にもさまざまな製品開発を試みながら、3年前より文房具事業にも注力してきた結果、今回、ご紹介する製品が誕生し、フェーズフリーアワード入選という結果をいただきました。

 

――「フェーズフリーアワード2023」に出品された「SlideNote」について教えてください。

神崎氏:「SlideNote」は書類に穴を開けずにセットできる、スライド式リングレスノートです。余った紙を簡単にノートにできるもので、コピー用紙であれば最大30枚程度挟むことができます。
「SlideNote」⇒こちら https://cf.phasefree.net/product/pf0122078/

 

――どのような経緯で「SlideNote」を開発されたのでしょうか。

神崎氏:私には子どもが3人いて、それぞれ学校が指定するノートを使っていますが、使い切らないうちに進級してまうため、未使用ページがたくさんあります。これを再利用しようと、当初は手作業でページを切り離し、ホチキスで留めてノートにしていました。この作業をもっと簡単にできないか。そう思ったことが開発のきっかけです。

 

――開発する中で苦労した点は。

神崎氏:この「SlideNote」は3つのパーツから構成されています。当社を含む都内の中小企業5社で開発を進めたのですが、世の中に参考になる類似品がまったくなく、ゼロからのスタートだった点が、今思うと一番難しかったところです。

 

――フェーズフリーアワードを知ったきっかけを教えてください。

神崎氏:販促活動を行う中で、繰り返しになりますが類似品がまったくないため、アワードなどに選出されることで市場の信用を得たい、という気持ちが芽生えました。

いろいろと調べる中でフェーズフリーアワードを知り、まずその考え方に強く共感したのを覚えています。そこで、私たちの「SlideNote」にもフェーズフリーの要素があるのではないかと考え、申し込みました。

 

――最初からフェーズフリーを意識したのではなく、日常の利便性から開発された製品ということですが、非常時の使用方法としては、どのようなイメージをお持ちですか。

 

神崎氏:「紙に穴を開けなくてもしっかりホールドできる」ことが、「SlideNote」の特徴の一つです。例えば災害時、避難所で配布される重要な書類や、持ち出した家族写真などを、簡単に、しっかりと保護し、保管できる機能はフェーズフリーに該当するのではないかと考えました。

 

――佐藤さんにお聞きします。フェーズフリー製品を開発する際の考え方について、補足があればお願いいたします。

佐藤氏:フェーズフリー製品は、非常時を意識して作るほど、日常とは遠い提案になってしまいます。フェーズフリー製品の開発ポイントは、日常を少しだけ便利にしよう、ついでに災害時の課題も解決できたらいい、そのような気持ちで取り組むことが大切です。

 

――フェーズフリー製品やサービスの開発を目指す企業の皆様に、お二人からアドバイスをお願いします。

 

神崎氏:まずは、「ユニバーサルデザイン」であること。さまざまな年代の方や、障害のある方でも、簡単に使えることが大事ですね。あとは、やはりシンプルさが大切だと思います。

 

佐藤氏:どこで誰が、どのように利用するかを想像し開発していくことが大切です。また、「日用品を災害時でも活用できるようにする」「防災用品を日常でも使いやすくする」という2つのアプローチがあるので、どちらも意識していただきたいですね。製品開発にあたっては、汎用性(さまざまな場面でさまざまな人が使える)と有効性(役に立つのか)の2軸が大切です。詳しくは、以下webサイトをご参照ください。

https://dcs.phasefree.net/assessment/

 

――ありがとうございました。