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誰かを守って、おカネも稼ぐ

未来の農業を守るために(RFJ株式会社)

【DATA】
製造元:RFJ株式会社(東京都 千代田区)
商品説明: ICTを活用し、有害鳥獣の捕獲従事者が「いつ、どこで、何を捕獲したか」を即時に自治体と共有できるアプリ・システム
商品仕様:スマートフォンアプリ、および、ウェブサービス
詳細:https://www.rfjapan.co.jp/service/smarthokaku.html

ヒット商品を創出するための原点をどのように見いだすか。まあ、さまざまな要素が考えられますが、そのなかの有力なひとつは「課題解決」であると思います。

社会には当然、ありとあらゆる課題が横たわっています。なかには「何が課題か」すらもわからないといった状況もあります。つまり、課題はそこに存在するのに、ハナから諦めてしまっていたりもします。この連載でいいますと、ファシルの「BOUSAI BLOCK for CAR」など好事例かもしれません。もし、自動車の中に防災用品を常備できていたら人命が助かる可能性は高まる。しかし、熱や保存性の問題から長らく本格的な商品は存在しませんでしたし、メーカーも開発に臨んできませんでした。そこに斬り込んだのがファシルでした。

課題解決へ果敢に挑む商品は大手企業の手によってしか生み出せないわけでは決してないという事実も、この「BOUSAI BLOCK for CAR」は示していました。中堅中小企業が答えを導くケースもあるのです。

で、ここからが今回のテーマです。東京のRFJが開発した「スマートHOKAKU」の話をお伝えしていきましょう。

これは、有害鳥獣をいつ、どこで捕獲したのかを、捕獲従事者と自治体が即時に情報共有できるシステムです。捕獲従事者はみずからのスマートフォンでアプリを使って、捕獲した鳥獣の画像をはじめ、必要な情報を簡単に自治体に送付することが可能となり、自治体側はその情報をデータとして管理・活用できるようになります。

それがどうした?と思われるかもしれませんが、私には相当に画期的なシステムと感じられました。この「スマートHOKAKU」の販売先は全国各地の自治体です。初期費用は66万円、運用にかかるのは年間22万円ですが、実際、2022年に発売後、すでに250もの自治体が導入(試験運用も含む)していると聞きます。

このページ冒頭に、同社による説明動画を貼り付けましたので、よかったらご覧ください。一体どのような仕組みかご理解いただけると思います。

この開発の背景に何があったのか、RFJの担当者はどこに課題を見いだし、そして何を解決しようと奮闘を続けているのか。順にお話ししていきましょう。

担い手の減少など課題は山積

RFJの担当者がまず挙げるのは、農地維持の限界をめぐる課題でした。

同社によると、基幹的農業従事者の数は、1965年に約1000万人だったのが、2024年には約114万人に激減。さらに2050年には約36万人にとどまる見込みといいます。その一方で、日本の国土の約7割を占める中山間地域では、日本全人口の1割にも未たない方々が農作物供給全体の約4割を担っているそうです。しかし、そうした中山間地域には、高齢化、耕作放棄地の増加という深刻な課題がある。

農業従事者だけの問題ではありません。とりわけ中山間地域では農作物に被害を与える有害鳥獣が多く出没しますが、捕獲従事者もまた高齢化の一途です。対策が後手に回り、その結果、農業に深刻な影響が出てしまっています。自治体もどこから手をつければいいのか、その対策に難儀している状況です。

だからといって諦めてしまっていいのか、とRFJは考えた。ICTの力をもってして、対策の量と質、その双方を高められないか、という話です。

具体的にはどういうことか。同社は次のように課題と解決策を言葉ではっきりと示したうえで、システムの開発に臨んだのでした。

まず、「捕獲・被害・対策・処理・利活用をデータで一体管理すること」。次に、「経験と勘に依存した運用から、EBPM(証拠に基づく政策・運用)への転換を期すこと」。最後は、「人が減る前提で成り立つ省力化・可視化・広域化モデルを構築すること」です。

課題のありか、そして、ゴールの設定…。これを言葉で明確に伝える作業は、ヒット商品の創出に欠かせないものであると私は考えています。RFJは、しっかりとその作業に臨んでいます。

当事者をどう説得していった?

「スマートHOKAKU」の開発をめぐって、実はここまで触れてこなかった、もうひとつ別の課題もあります。それは「高齢化している捕獲従事者も、また自治体職員も、必ずしもICTへのリテラシーが高くない側面があること」です。

まず何をおいても、捕獲を担っている従事者はきちんとスマホアプリを使いこなせるのか。ここは気になります。

RFJの担当者に聞くと「だからこそ、捕獲従事者に直接会って、使い方の説明会を必ず実行している」といいます。「スマートHOKAKU」を導入した自治体に赴いて、高齢者も多いであろう捕獲従事者に丁寧に使用法を教えるということを実行しているというのですね。

こう知りますと、ヒット商品創出には、先ほどお伝えした「課題のありかの抽出」や「ゴールの明確化」と同じくらい、手間を決して惜しまないという担当者のいわば「覚悟が必須」ということが理解できます。

説明をしっかりとすれば、捕獲従事者にとっても「スマートHOKAKU」のメリットがしっかり伝わるようです。従来であれば、面倒な書類を完成させて、しかも、捕獲した証拠物を携えて自治体まで出向かなくてはいけなかった。証拠物というのは、捕獲した鳥獣の個体の一部(両耳や尻尾など)だそうです。時間も経過しますから、匂いだって相当なものであるはずです。ところが「スマートHOKAKU」を使えば、そうした面倒から解放され、捕獲した現場で手続きを完結できます。捕まえた鳥獣の種類によっては、スマホで撮影すれば、その体長や体重をAIで推計してくれる機能も備わっていますから。

では、自治体への説得は? 書類の処理が飛躍的にシンプルになるのはいうまでもありませんね。自治体にすれば、捕獲従事者が有害鳥獣を捕らえてくれれば問題すべてが解決というわけではない。そこからがひと苦労です。自治体によっては、何年間にも及ぶ捕獲関連書類が山積みになったままというケースもあると聞きます。捕獲従事者が書類を管轄の自治体(市区町村)に提出して、それを自治体が整理して、上の自治体(都道府県)に情報を渡し、さらに国がそれらを掌握するまで、RFJの担当者は「1年半から2年も要していた」と指摘します。

そうした手続きが簡便にできるだけでは当然ありません。捕獲情報のデータ化によって、どこでいつ捕獲されたかはもちろん、どこの地区が対策に手薄なのかもデータから瞬時に掴むことができるわけで、これによって効率的な手立てを講じることができます。

RFJによると、捕獲場所を共有できるアプリまでは他社に存在していたといいます。しかし「スマートHOKAKU」のように、捕獲した鳥獣の体長や体重を画像から自動推計でき、さらにそうしたデータを自治体はじめ関係各所と共有・利活用し続けられるところまで踏み込んだシステムは他になく、これにより「自治体間でも、この鳥獣被害の問題を広域連携の視点で共有できるシステムになった」と強調します。つまり、このシステムの活用によって、行政コストを軽減することも可能になる。

ICTの領域は年々進化していますから、同社が「スマートHOKAKU」を開発、運用するにあたっては、かなりの重い決断がそこにあっただろうと想像します。いったん開発すればもうそれで完成ではなく、システムにずっと手を入れていかなければならない。それでも同社は課題解決のために臨んでいる。実際、同社の担当者はいいます。「このシステムを手がけるのは、他にやるところがないからです」と…。やはり最後の決め手は、企業としての覚悟なのかもしれません。