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連載➎リアリティあってこその「安心」(エイム株式会社)

【DATA】
製造元:エイム株式会社(愛知県 名古屋市)
商品説明:離島の地域課題をつぶさに実踏調査して完成させた小型モビリティ
商品仕様:サイズ/全長2485〜全幅1295××全高1560mm 車両重量/646kg パワーユニット/モーター 駆動/RWD             乗車定員/2名もしくは1名の2モデル 交流電力量消費率/79.7㎞(WLTCモード中速) 一充電走行距離/120㎞
詳細:https://www.aim-info.co.jp/aim-evm/

今回は商品開発がかなり大掛かりとなる商品事例を取り上げること、お許しください。EV(電気自動車)の小型モビリティです。

「クルマなんて大手自動車メーカーの手による領域だろう」と思われるかもしれませんが、軽自動車規格の上限サイズよりも小さな、2人乗りもしくは1人乗りなどのEV小型モビリティは、20年間以上も前から、大手だけではなく中堅中小の企業も開発を続けてきました。

モーターを動力源とする小型モビリティは内燃機関(エンジン)を用いる場合と比べて新規参入企業にも開発できる余地があること、また、小型モビリティの領域ではコンセプトに新鮮さが求められる傾向にあり、発想をかたちにすることで存在感を得られることへの期待も、各企業にはあったと思います。

とはいうものの、小型モビリティはまだまだ国内市場に根づいているとまでは表現できません。そうしたなか、興味深いモデルが登場しています。

今回はそんな一台について綴っていきたいのですが、お伝えしたいのはこの小型モビリティそのものというよりも、どのようなプロセスで完成をみたかという点にあります。

この小型モビリティからは、一つの特徴が見てとれます。安全や安心をめぐる「リアル」を開発陣が果敢に掴もうと動き、そこから得られた材料をしっかりと商品の仕様に落とし込んだ、という点です。

安心・安全の「リアル」とは、今回のケースではどういう話なのか。また、なぜそれが大事なのか。なにも小型モビリティの領域に限らない、重要となる商品開発マインド形成のヒントがそこにあると、私は思います。

離島に何度も訪れて、課題発掘

前置きが長くなって失礼しました。今回の事例は「AIM EVM」という名の小型モビリティです。

2人乗り/1人乗りのモデルがそれぞれあり、リチウムイオンバッテリーとモーターを搭載するEVです。ボディサイズは軽自動車よりも小さいながら、荷室をちゃんと備えています。200Vの充電で、フル充電となるまでは5時間、1回のフル充電からの航続距離は120kmとしています。

車両本体価格は税別190万円から。すでに法人向けの注文は受付を始めており、一般ユーザー向けは2026年春からの受付スタートと聞きます。

開発・販売するのは、名古屋市でエンジニアリングサービスを展開するエイムという企業です。自社でのモビリティの開発はこれまでも続けてきたといいますが、満を持して「AIM EVM」の量産に踏み切りました。

先ほど触れたスペック(性能や機能)だけを見ると、過去に数多の企業が手掛けてきた小型モビリティとそう変わらないように感じるかもしれません。この「AIM EVM」が特徴的なのは、コンセプト作成から完成に至るまで、沖縄県の久米島に開発陣が通い詰めてつくり上げた小型モビリティであるところです。

小型モビリティには、地域の過疎化、高齢化、公共交通機関の不足などといった社会課題を解消するための存在という側面があります。ただ、この「AIM EVM」の場合にはさらに、離島にまつわる課題という「かたち」で、照準を相当に絞り込んでいるわけです。

なぜ既存モデルは定着しない?

どうしてまた、離島というところに焦点を当てたのか。同社のチーフエンジニアに聞いてみました。

「離島ならではの問題があるということがわかったからです」

まず、多くの離島では、本州などと比べるとなおのこと公共交通機関の整備に乏しい。また、台風などの自然災害が生じたときなど、ガソリンの供給が途絶えてしまいます。

チーフエンジニアは言います。「だからこそ、シニアでも取りまわしが容易で扱いやすい小型モビリティの存在は大事ですし、ガソリン供給が途絶えた場面でも島内を移動できるよう、EVであることが意味を持ちます」

開発陣が久米島を何度も訪れるなかで、さらに大きな課題に気づいたそうです。

「久米島がまさにそうなのですが、地形のことも見逃してはいけない。坂道が多いんです。これは久米島に限らず、少なからぬ離島に共通する部分だと知ることができました」

これこそがきわめて大事な「島のリアル」でしょう。どういうことか。既存の小型モビリティのなかには、出力不足で坂道を走り抜けるのに難儀するモデルもあった、とチーフエンジニアは指摘します。つまり、離島に横たわる移動の困難を解決するには、ただ単に小型モビリティをつくればいいのではなくて、登坂能力に長けた1台でなくてはいけなかった訳です。

安全・安心を創出することを目指す商品を開発するうえで、こうした「リアル」をしっかりと感じ取ることが不可欠であることを、この「AIM EVM」は教えてくれています。

もう一点、上の画像をご確認いただきたいのですが、島内の地域が停電に見舞われたときのために「AIM EVM」のフロント部分には、外部給電ポートを装備しています。この小型モビリティが100V電源にもなるということです。

島で使う一台だからこそのデザイン

内外装のデザインのことにも少し触れておきましょう。

「AIM EVM」のデザインワークを担ったのは、カーデザイナーとしても有名な中村史郎さんが率いるSN Design Platformだそうです。かなり可憐なデザインですね。ここにも意味があると私は思いました。

以前、ある大手自動車メーカーでEVを開発するデザイナーに話を聞いたことがあります。彼が力説していたのは「EVこそ、デザインに愛嬌が必要」というものでした。ややもすると冷たい印象を与えかねないEVにおいては、ユーザーが親近感を抱けるように愛嬌あるデザインが求められるというのですね。私はこの指摘に共感しました。そして今回の「AIM EVM」もまさに愛嬌を兼ね備えたデザインに仕上がっています。

離島に照準を定めた小型モビリティなればこそともと感じられるデザイン処理もあります。上の画像をご覧ください。「AIM EVM」はTバーフルーフ仕様なんです。運転席と助手席のルーフ部分を開放できるつくりになっている。

「島の空気を感じてもらいやすいように、です」

チーフエンジニアは、その意図を説明してくれました。

「島のリアル」から「過疎地のリアル」へ

最後にお伝えしたいことがあります。ここまでお話ししてきましたとおり、「AIM EVM」は、安全・安心をめぐる「島のリアル」をしっかりと掴んだ末の1台として完成しています。

しかしながら、結果としては、離島に限らず、各地の「過疎地域のリアル」に寄り添う小型モビリティに仕上がっている印象が、私にはあります。本州などの過疎地でも離島同様の悩みはありますから。

つまり、「AIM EVM」は、離島にまず注目して、その「リアル」を掴みにいこうと開発陣が取り組んだ成果である。ターゲットが明快なだけに、「リアル」をきちんと捉えることが可能となった。さらに、そうして掴むことのできた「リアル」は他の地域の安全・安心を確保するのにも役立つ材料となった。それによって販路開拓にも光が見えてきた。

この開発プロセスこそが肝要だったのではないかと私は思いました。