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令和7年度第4回普及啓発セミナー(防災・減災)【今だから必要とされる防災製品とは? ~防災のプロから見た開発・改良ポイント~】を開催しました

公益財団法人東京都中小企業振興公社(以下、公社)では、安全・安心な東京の実現に向けた、製品開発を支援する事業を実施しています。その一環として2025年9月25日、第4回普及啓発セミナー(防災・減災)「今だから必要とされる防災製品とは? ~防災のプロから見た開発・改良ポイント~」を開催しました。その内容をご紹介します。

本記事の目次

【第一部:講演「今だから必要とされる防災製品とは? ~“防災のプロ”から見た開発・改良ポイント~」】

・防災グッズの種類

・防災製品のトレンド

・防災製品の開発・事業展開の方向性

・防災製品の市場・主要な販売ルート

・防災製品の販売戦略

 

【第二部:事例紹介 株式会社トーテツ「自然災害の被害抑制と復旧までの応急対応『UN貯水システム』」】

・UN貯水システムとは

・UN貯水システムの開発経緯

・事業申請で苦労したこと

・今後の展望

【第一部:講演】今だから必要とされる防災製品とは?

地震や風水害など自然災害が絶えない日本。安全・安心な東京を実現するうえで、災害リスクを想定した防災・減災の製品やサービスが大きなカギを握ります。「備え・防災は日本のライフスタイル」をテーマに、防災を分かりやすく伝える防災専門家、高荷 智也氏にお話しいただきました。

講師:高荷 智也氏

合同会社ソナエルワークス 代表/備え・防災・BCP策定アドバイザー

「備え・防災は日本のライフスタイル」をテーマに「自分と家族が死なないための防災対策」と「中小企業のBCP策定」のポイントを体系的に解説するフリーの防災専門家。大地震や感染症など自然災害への備えから、銃火器を使わないゾンビ対策まで、堅い防災を分かりやすく伝える活動に従事し、講演・執筆・メディア出演の実績も多い。防災YouTuber、Voicyパーソナリティとしても活動する。著書に『今日から始める家庭の防災計画』『中小企業のためのBCP策定パーフェクトガイド』他多数。1982年、静岡県生まれ。

■防災グッズの種類

防災グッズは大きく3種類に分類されます。1つ目は「主に災害時に使うもの」で、電気・ガス・水道が止まった際に必要な製品が該当します。具体的には防災リュック、非常用トイレ、備蓄食、飲料水などで、これらの製品は性能、備蓄期間、価格が差別化要素であり、大手企業が強い分野です。

2つ目は「主に平時に使うもの」です。もともと防災グッズではない、アウトドアグッズやキャンプ用品が、災害時にも役立つアイテムとして販売されるケースは多く、そのような製品も防災分野では防災グッズとして扱います。

3つ目は「フェーズフリーなアイテム」です。フェーズフリーとは、平時にも非常時にも使える製品を指します。昨今のトレンドでもあり、メディアから取り上げられることも多いため、宣伝しやすい特徴があります。中小企業が新しく販売する防災グッズはフェーズフリーであることが多いです。

■防災製品のトレンド

トレンドの推移

防災製品のトレンドは、この15年間で大きく変化しています。

2011年の東日本大震災以降、防災製品にも「高品質」が求められるようになりました。特に顕著に見られたのは、美味しい備蓄食や非常食の需要の高まりです。これまで主流だった「災害用製品の品質はそこそこでいい」という考え方から転換し、「防災製品も品質よくつくらなければならない」という認識が広がりました。

2016年の熊本地震以降は、防災製品にも「デザイン性」が求められるようになりました。おしゃれな防災グッズの需要が増し、パッケージにこだわっていない製品は売れにくくなったのです。

そして現在のトレンドが、平時でも非常時でも使える「フェーズフリー」です。高品質でデザイン性が優れていることは当たり前として、そのうえで普段から便利に使えて災害時にも役立つ防災グッズが注目を集めています。

フェーズフリー製品の例

フェーズフリー製品の例をいくつか紹介します。

日常生活用品の企画・開発を行う(株)トップランドが発売する「コンセントタップ型ライト」は、分かりやすいフェーズフリー製品の一つです。
普段は電源タップとして利用でき、停電時には非常灯や懐中電灯として利用できます。コンセントに挿しておくだけで自動的に充電されるため、普段から使っていれば電池・バッテリー切れの心配はありません。価格も1,700円~2,000円程度と手頃です。

 

 

 

 

 

 

瓶型ソーラーランタンの輸入・販売を行うソネングラスジャパン(株)は、昼に太陽光エネルギーを蓄え、夜に明かりを灯すソーラーパネル内蔵のランタン「ソネングラス®︎」を発売しています。平時はインテリアとして使え、災害時には電力不要の光源として使えます。

 

なお、「フェーズフリー」という言葉を概念として用いることは自由に行えますが、一般社団法人フェーズフリー協会の審査・認証を受けることで、「PF認証マーク」を使用することもできます。販促の一環として認証を受けたい場合は、フェーズフリー協会のWEBサイトをご確認ください。

https://cf.phasefree.net/

 

■防災製品の開発・事業展開の方向性

防災製品の開発や事業展開には、大きく3つの方向性があります。

本業の製品・サービスを「防災用」に展開
1つ目は、現在本業で展開している製品やサービスを、防災用として展開するパターンです。もともと別の用途で開発された製品を防災用として売り出すケースや、既存製品を長期備蓄対応製品としてリブランディングして売り出すケースがあります。

本業のノウハウを活かして防災グッズを展開
2つ目は、本業のノウハウや技術を活かして防災グッズをつくるパターンです。製造工程に自社の技術や設備、素材を使うパターンや、販売先としてこれまで築いたお得意先や営業ルートを活用するパターンがあります。

新規事業として防災事業を展開
3つ目は、完全に新規事業として防災事業を展開するパターンです。今まで防災に関わったことがなく製造の経験もない企業が新しく防災製品の開発を始めるのは、個人的には非常に難易度が高いと思います。自社で製造する場合もOEMの場合もゼロからノウハウを積み上げなければなりません。仕入れて販売する方法もありますが簡単ではなく、新しい業務フローの確立、販売先の開拓などやるべきことが多岐にわたります。

 

■防災製品の市場・主要な販売ルート

防災製品の販売を始めるにあたっては「どうやって売るのか」も非常に重要です。主要な販売ルートを5つ紹介します。

1つ目はECサイト・ECモールです。自社の直販サイトだけでなく、Amazon、楽天などのモールを使う方法もあります。利益率は他の販売ルートと比べて最も大きいです。特に既存の販売ルートがない場合、ECは必須だと言えるでしょう。

2つ目はカタログ通販です。個人向けと企業向けがあり、販売製品によって使い分けが必要です。カタログ通販とECサイトはセットで活用されることが多く、紙でもWebでも買える状態にすることで、安定販売の土台になります。

3つ目はテレビ通販・テレビショッピングです。特に高齢者層に対して売上げが見込める販売手段です。

4つ目は店頭販売で、ホームセンターや全国にある雑貨店「ハンズ」などが販売拠点としてお勧めです。店頭販売は販売ルートの一つであると同時に、お客さまから直接フィードバックを得る手段でもあります。

5つ目は代理店・商社経由での販売です。ゼロから新しい販売ルートを作るのが大変な場合、代理店や商社に依頼することで手間をかけずに製品を流通させることができます。すでに代理店や商社と取引きがある場合、「今度、防災製品も販売してほしい」と伝えるだけで始められます。

 

■防災製品の販売戦略

防災製品の種類によっても意識すべき販売戦略は変わります。

定期的に売れる防災製品

飲料水、備蓄食、備蓄トイレなど定期購入が必要な「防災備蓄品」は、入れ替え需要の高まるタイミングで売れやすいです。具体的には毎年3月と9月の防災シーズン、災害発生後などです。個人だけでなく企業や自治体からの入れ替え需要もあります。

定期購入が必要な製品は基本的に、品質の良いものを、適切な売り場に、適切なタイミングで供給すれば売れます。ただし、定期購入が必要な製品はすでに一般化しており、一定品質を担保した上、基本的には価格勝負になってしまう厳しい状況です。Amazonや楽天などのECモールでは安いものから順番に売れていき、高いものが売れ残る傾向があります。

不定期に売れる防災製品

一方で防災リュック、避難所アイテムなど日常生活で必要のない防災製品は、ECサイトに掲載しているだけで売れることはなく、企業側から消費者に向けてアピールをしなければなりません。

その際にお勧めなのがテストマーケティングの活用です。たとえばMakuake(マクアケ)のようなクラウドファンディング(※)サイトに出品をすることで、新しいものが好きな人にアピールできるのと同時にレビューがもらえます。ただし、出品しただけでは見つけてもらえない可能性があるので、SNSやWebサイトでの宣伝は必要です。

展示会への出展もお勧めです。「オフィス防災EXPO」「危機管理産業展」「防犯防災総合展」「震災対策技術展」など主要都市を中心に各地で開催されていますので、自社製品のアピールの場として検討されてはどうでしょうか。

※クラウドファンディング:インターネットを通じて不特定多数の人から資金を集める仕組み。プロジェクト実行者が叶えたい夢や開発予定製品などを公開し、共感した人々が少額から支援する。支援者には、プロジェクトの成果物である商品やサービス、モニター利用の権利やお礼の手紙などさまざまなリターンが提供される。

 

 

【第二部:事例紹介 株式会社トーテツ「自然災害の被害抑制と復旧までの応急対応『UN貯水システム』」】

公社事業を活用して事業化に取り組み、危機管理産業展(RISCON)2025の公社ブースにも出展予定の(株)トーテツ様に、ユニバーサル(UN)貯水システムの事例についてご紹介をいただきました。

講師:安藤 美乃氏

株式会社トーテツ 水・グリーンインフラ研究所 所長

東京農業大学大学院修士課程を修了後、「世界の食糧問題、環境問題を解決するには、まずは日本の農業から!」という意気込みで有機農業法人に約4年間勤務。その後、農業と深い関係のある雨水の世界に引き込まれ、株式会社トーテツに入社。雨水貯留槽の営業を経験後、2023年同社の水・グリーンインフラ研究所設立に伴い、研究所所長に就任。同時に研究所に併設する農地を取得し、相模原市で就農。1,000tの雨水を貯留槽に蓄え、雨水を農業に、生活用水に、飲み水に活用する取り組みを行っている。

■UN貯水システムとは

(株)トーテツは令和3年度に公社の「先進的防災技術実用化支援事業(助成金)(現在の「安全・安心な東京の実現に向けた製品開発支援事業(助成金)の前身事業のこと。以下、「助成金事業」)」に「自然災害の被害抑止と復旧までの応急対応『UN水貯留システム』」というテーマで申請、採択されています。UN貯水システムとは、コンクリート打設の残置型枠である「UNフォーム」と、プラスチック製貯留材「アクアパレス」で構成されたシステムです。
一般的なプラスチックタンクは貯水量が1~2t程度なのに対し、UN貯水システムは最低でも10t、大規模なものでは1,000tから10,000t規模の貯水が可能です。
UN貯水システムは、ゲリラ豪雨時の都市型洪水等の被害抑止、火災時の初期消火や延焼抑止、地震後の水道インフラ復旧までの生活用水の応急対応に活用可能で、防災・減災に貢献します。

 

■UN貯水システムの開発経緯

UN貯水システム開発のきっかけは、JICA(国際協力機構)による普及実証事業に採択されて実施したインドのタミルナドゥ州で行われた628.8㎥の水槽建造事業でした。
事業開始直後は、大規模貯留槽を建造するう上で一般的に用いられる「シート工法」を提案しました。プラスチック貯留材を大きなシートで包んで壁を作り、その中に水を溜める工法です。しかし、優れたシート職人がいないという理由で別の工法への変更が求められました。

次に提案したのは、「ラス網工法」でした。金属製の網(ラス網)を張り、その上からコンクリートを流し込み、貯留槽外壁を形成する方法です。ところが、現地の方々には馴染みがなく、受け入れてもらえませんでした。

最終的には、インドで伝統的に行われている、レンガを積んでコンクリートを打設する方法が採用され、なんとか貯留槽を完成させることができました。

この一連の試行錯誤を経て既存の工法に限界を感じ、「世界中どこでも誰でも建設できる貯留槽」の検討を始めました。そこで思いついたのが、ブロック玩具のようにあらかじめパーツを用意し、それらを組み合わせることで簡単に貯留槽を組み立てられるシステムです。

そして新工法での施工実現のため、公社の助成金事業に申請。助成金を活用して、新工法を開発し、神奈川県相模原市の弊社敷地内に1,000tの貯留槽を完成させました。

 

■事業申請で苦労したこと

助成金の活用を検討されている企業様のために、弊社で苦労したポイントを3つ紹介します。申請される際の参考にしてもらえればと思います。

1つ目は「達成目標」の具体化です。助成金事業は、申請時に定めた目標を達成されたことが確認できないと助成金が交付されない仕組みです。企業としてはつい抽象的な目標設定をしたくなりますが、客観的に確認可能な目標設定でなければ認められません。
公社・事務局から「誰が見ても分かるように数値化しましょう」とアドバイスされ、何度もやりとりを重ねながら達成目標を具体化しました。その工程に時間がかかりました。

2つ目は、目標達成を証明するための資料収集です。見積書、納品書、納品物の写真撮影、請求書、支払証明など、一連の資料収集は非常に手間がかかりました。想定よりも手間がかかることを見越して、専任担当者を置くことを推奨します。

3つ目は、変更申請です。事業が予定どおりに進まない場合は変更申請の提出が必要ですが、変更申請が承認されるまでは次の作業に着手できません。助成金事業の申請時点でなるべく綿密な計画を立てて提出していれば、もっとスムーズに進められたのでは、と反省しています。

総じて、申請、資料作成、事業報告と通常業務との並行は非常に大変でしたが、公社・事務局担当者が伴走してくださり、なんとか乗り越えられました。最初は細かい指摘に戸惑うこともありましたが、おかげさまで事業は成功し、助成金も当初計画どおりに受け取ることができました。

 

■今後の展望

現在、弊社は公社の「安全・安心な東京の実現に向けた製品開発支援事業」の専門家派遣支援を利用し、一般社団法人フェーズフリー協会の佐藤唯行代表理事にアドバイスをいただきながら、フェーズフリーな空間づくりに取り組んでいます。

具体的には、全国各地の調整池を覆蓋(ふくがい)して上部を利用する取り組みを推進しています。調整池は全国に数多く存在し、いざという時には重要な役割を果たしますが、普段はほとんど使われません。駅の近くなど好立地に存在するケースも多く、もったいない状況です。
そこで、自治体、貯留材メーカー、デベロッパーの3者で協議を重ね、調整池の上部利用について検討を進めています。上部の有効利用により商業施設、公園、駐車場など多目的な活用が可能になります。
自治体にとっては税収増と雇用創出のチャンスであり、地域活性化、住民サービス向上、地域のにぎわい創出も期待できます。

また、海外でも新しい事業が始まっています。相模原市に1,000tの貯留槽を建設した際、南アフリカから農業者十数名が見学に来られました。彼らは非常に興味をもち、南アフリカにも同様の施設を作りたいと希望しています。現在、オンライン会議などを通じて、集水方法や農地への導水方法等について協議を進めているところです。

弊社は「ダム・溜池からオンサイト水インフラへ」というスローガンを掲げています。今後もUN貯水システムに限らず、世界中に安全で使い勝手のよい水インフラを構築し、災害に強いまちづくりやエネルギー問題解決に貢献してまいります。