- 防災・減災
高性能電磁波レーダユニット搭載の壁面天井走行ロボットで、インフラ点検の負担を減らす(KEYTEC株式会社)
公社の「安全・安心な東京の実現に向けた製品開発支援事業」を利用して、高性能電磁波レーダNX25(以下、同レーダ)搭載の吸引型壁面・天井走行ロボット「SPIRADER(スパイレーダー)」を開発しました。
開発概要
コンクリート構造物の耐久性・耐震性を判断する必要な最先端レーダ技術を用いた探査機器の開発と販売を行うKEYTEC株式会社。同社は東京都中小企業振興公社(以下、公社)の令和5年度「安全・安心な東京の実現に向けた製品開発支援事業」を利用して「同レーダ搭載の吸引型壁面・天井走行ロボット」を開発し、天井面や高所壁面の非破壊検査の効率化を実現しました。
【インタビュー】
開発の経緯について代表取締役の岩田 和彦氏に伺いました。
高性能電磁波レーダNX25を壁面走行ロボットに搭載し、コンクリート内部探査を効率化
――同レーダ搭載の吸引型壁面・天井走行ロボット「SPIRADER」の開発のきっかけを教えてください。
きっかけは、人手のかかる鉄筋探査(※)を効率化できないか考えたことです。
当社の電磁波レーダは50カ国以上で利用され、日本の重要なインフラ施設の7~8割は当社開発の探査機器が使われています。しかし、従来からの検査機器は手持ちタイプで、人がコンクリートに押し当てる必要がありました。加えて高所検査においては、足場建設や高所作業車の手配が必要で、人も時間もお金も多くかかります。
効率化を検討するなか、最初に考えたのはドローンの活用でした。ところが「トンネルの中ではGPSが使えない」「強風に弱い」などの弱点がネックとなり、実用化には至りませんでした。悩んでいたときに飛び込んできたのが、JR東日本が東北新幹線(東京~盛岡間)及び上越新幹線(大宮~新潟間)の約800kmにわたる橋梁やトンネルを壁面走行ロボットで点検するというニュースでした。
私はすぐに東日本旅客鉄道(株)(JR東日本)の開発部門を訪ね、電磁波レーダ搭載のロボットを一緒につくれないかと打診しました。JR東日本と(株)オンガエンジアリングが共同開発した吸引型天井・壁面走行ロボットに、当社の電磁波レーダを組み合わせることで精確な深度の鉄筋探査がスムーズになり、大幅なコストカットと時間短縮を実現できると考えたのです。
その結果、「高性能電磁波レーダNX25を搭載するSPIRADER」の開発が始まりました。開発費用は公社の「安全・安心な東京の実現に向けた製品開発支援事業」を活用させていただきました。
※鉄筋探査:コンクリート構造物の内部にある鉄筋の位置や配筋状態、埋設物、空洞、ひび割れ、コンクリートの厚みなどを非破壊で調べる検査のこと
――そもそも、鉄筋探査はなぜ必要なのでしょうか。
道路やトンネル、下水道をはじめコンクリートが使われている構造物の寿命を延ばすためです。コンクリート構造物は定期的にメンテナンスすれば100年以上長持ちすると考えられている一方で、劣化を放置すると30年で崩壊することもあると言われています。
人間と違い構造物は「痛い」「しんどい」と言えません。気づかないうちに劣化が進むため、最悪の場合、取り返しのつかない事故につながります。定期的な検査を行うことで、早期補修が可能となり、生活に欠かせないインフラ設備を安心して長く使えるのです。
最先端技術の組み合わせで誕生した唯一無二の製品
――開発した「SPIRADER」の特徴を教えてください。
本製品には「高性能電磁波レーダ搭載」「壁面・天井の安定走行」という2つの特徴があります。
●高性能電磁波レーダ搭載について
一般的なレーダはコンクリート内部に鉄筋があると、その下にある電線管や配管、下層の鉄筋(ダブル配筋・トリプル配筋)を検知できません。一方、当社のレーダは電波の出し方やフィルター処理に工夫を施し、鉄筋の下まで検知可能です。それにより、鉄筋の下にある空洞、ひび割れ、電線管、配管まで確実に見ることができるのです。
この技術が評価され、ほぼすべての原子力発電所をはじめとする重要なインフラ施設に当社のレーダが導入されています。特に原子力発電所は構造が複雑で、上層に鉄筋、その下に配管や電線管、さらに下層に鉄筋という多層構造になっています。安全な補修を行うには、上層の鉄筋の下にあるものを正確に把握する必要があり、当社レーダがその役割を担っています。
●壁面の安定走行について
「SPIRADER」は耐荷重62kgまでの機器を複数搭載でき、壁面や天井を自由自在に走行可能です。一般的に、重量のある機体を壁面移動させるには、ワイヤーで吊って、屋上から巻き上げる形式が採用されますが、その場合は上下移動しかできず、水平移動するためには再度ワイヤーを設置し直す必要があります。
しかし、この吸引型天井・壁面走行ロボットはワイヤーなしで壁面を自由に走行可能です。将来的には積載量の大きさを活用し、鉄筋探査だけでなく、検知したひび割れの補修機能の搭載も検討しています。
――「SPIRADER」によって可能になったこととは?
まずは構造物の点検にかかるコストが大幅に削減されます。大人数の点検作業員確保や高所作業用の足場の組み立てなどが不要となるため、従来の10分の1から20分の1ほどの費用で点検作業が行えます。
また災害時の、人が入れない場所の安全性確認にも活用可能です。私自身、阪神・淡路大震災が起きた当時に神戸に住んでいたこともあり、道路が寸断されてクレーン車や高所作業車が通れない、崩壊の危険性が高い構造物に人が入れないために復旧が遅々として進まない状況などを目の当たりにしていました。今後、同じような状況に陥ったとしても「SPIRADER」があれば、様々な障害を乗り越え、スピーディーな検査が可能になるはずです。
さらに、究極的には地球温暖化対策にも貢献できると考えています。実はセメントの生産には大量のCO₂が排出され、世界の総CO₂排出量の約8%を占めるとも言われています。構造物を長持ちさせることで新たなセメントの製造も減少でき、その結果、地球の環境改善に貢献できるのです。
実証実験を繰り返し、噴出する問題を一つひとつクリアに
――吸引型天井・壁面走行ロボットに電磁波レーダを搭載するにあたり、苦労したことはありますか。
挙げると切りがありません。問題が発生するたびに開発メンバー全員で知恵を絞り、実証実験を繰り返しながら一つひとつ解決していきました。
例えば、探査結果に干渉するノイズの排除です。電磁波レーダはアンテナから周波数の高い電磁波を輻射(ふくしゃ)し、コンクリート内の鉄筋や非金属管、空洞等からの反射波を計測することで、内部構造を把握します。ところがロボットの中にレーダが格納されることで、ロボットの金属部品にも電磁波が当たり、その反射波がコンクリートから返ってきた波に干渉していました。
そこで、専用のフィルターの開発、アンテナの向きや電波を出す回数の調整などを行い、ノイズの入らないレーダ搭載方法を確立しました。
また、スムーズな移動を実現させることも苦労したポイントです。ロボット本体はある程度の段差であれば乗り越え、タイルの目地程度なら問題なく走行できます。しかし、レーダのアンテナ部分は測定のためにコンクリート面に接近させて動作させる必要があり、レーダを作動させたまま旋回すると、アンテナ部分が突起物などに当たり、破損するリスクがありました。
この問題を解決するため、旋回時にはアンテナ部分を上昇させ、測定時には下降させる昇降装置を新たに開発しました。
――「SPIRADER」は「EXPO 2025 大阪・関西万博」にも出品されました。反響はいかがでしたか。
おかげさまで反響は大きく、カナダ、ドイツ、コロンビアなど計15か国のメーカーから声がかかり、そのうちの数社と商談が進んでいるところです。用途は主に巨大構造物の点検作業で、特に国営鉄道や地下鉄の整備や品質検査に活用したいという相談が多いです。
安全管理を徹底し、国内外に「SPIRADER」を届けたい
――「SPIRADER」の今後の展望を教えてください。
2025年5月から正式販売を開始しましたが、現在は新規の商談を一時的にストップしています。理由は、安全な運用体制の構築を優先しているためです。
「SPIRADER」は高所で動作するため、操作を誤ると落下事故につながります。そこで、一般社団法人日本非破壊内部探査技術協会により行われる講習会にロボット操作のカリキュラムを組み込み、正しい知識を持つ技術者の育成を開始しました。
これまでの販売先は当社と信頼関係のある企業に限定しており、これらの企業には協会理事として参画してもらう予定です。育成体制が整い次第、一般販売を再開し、購入が難しい企業のためのレンタルサービスも検討しています。
――「SPIRADER」の改良も予定しているのでしょうか。
もちろんです。まず取り組みたいのは自動走行機能の開発です。現在は人による操縦が前提ですが、今後は構造物をカメラで撮影してデータを送るとロボットが自動で検査を行う、といった自動化システムの開発を目指しています。
また、壁面から天井に乗り移り、突起物などの大きな障害物を乗り越えるための機構の開発も進めています。すでに特許申請中のアイデアもあり、実用化に向けて準備中です。
さらに、今回はレーダを搭載したロボットを開発しましたが、当初検討していたドローンへのレーダ搭載もあきらめていません。ドローンは制約が多いですが、離れた場所から構造物の検査ができる点で活用の幅が大きいと考えています。
ドローンとロボット、それぞれの強みを活かしながら連携する仕組みを構築し、社会インフラの検査・調査のさらなる効率化に貢献したいです。
――「安全・安心」をテーマとした製品・サービスを開発している方々へメッセージをお願いいたします。
資金が潤沢ではない中小規模の会社にとって、公社の「安全・安心な東京の実現に向けた製品開発支援事業」のような助成金は非常にありがたく、当社もそのおかげで事業を軌道に乗せられたと考えています。
「こうすれば世の中のためになる」というアイデアを、資金不足が原因で実現できない企業は少なくないと思います。そのような企業はぜひ、公社事業をうまく活用いただければと思います。
▶『SPIRADER』の製品紹介サイトはこちら
『SPIRADER』の製品紹介サイトはこちらhttps://www.key-t.co.jp/news/240904_01/
企業情報
| 社名 | KEYTEC株式会社 |
|---|---|
| 所在地 | (東京オフィス)〒104-0051 東京都中央区佃1-11-8 ピアウエストスクエアビル355号室 (関西オフィス)〒651-0083 兵庫県神戸市中央区浜辺通5-1-14 神戸商工貿易センタービル11F |
| 設立 | 2006年7月 |
| 事業内容 | 電磁波レーダや鉄筋腐食探知機を用いたコンクリート構造物の非破壊検査機器の開発・販売 |
| サイトURL | https://www.key-t.co.jp/ |


